ケルトとは、古代ヨーロッパの複数の人々や文化、そして現代まで続く言語や文化を語るときに使う言葉です。
「ケルト」という国が一つあったわけではありません。今もアイルランド、スコットランド、ウェールズなどの言語や音楽、物語を通じて、この言葉に出会うことができます。
スペイン・ナバラ州のバルゴタを歩いたとき、石造りの家の木の扉の上に、小さな円形の石彫りを見つけました。中心から三方向へ曲がる形が伸びていて、思わず写真に収めました。何を表しているのか分からない模様にも、その土地の歴史が隠れているように感じます。
「ケルト」という言葉に惹かれるのも、こうした形の背景を知りたい気持ちからです。
この記事では、ケルトが指す範囲と歴史を押さえ、展示品の模様・音楽・ドルイド・魔女との関係を順に見ていきます。
ケルトとは?どこの国の文化?

「ケルト」は、時代によって指す対象が変わってきた言葉です。古代ギリシアやローマの人々はヨーロッパのさまざまな集団を「ケルト」と呼びました。
しかし、それらの人々が一つの国や同じ習慣を持っていたわけではありません。大英博物館も、考古学から見えてくるのは地域ごとに異なる集団のつながりだと説明しています。
現代では、ケルト語派の言語や、それに関わる地域の文化を話すときにも使います。アイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュ、コーンウォール、マン島などがよく挙げられます。
ただし、各地域の歩みを「ケルト」という一語だけで説明することはできません。
参考:大英博物館「Who were the Celts?」/スコットランド国立博物館「Celts」
古代ケルトの歴史を簡単にたどる

古代のケルトを語る際には、中央ヨーロッパの鉄器時代に見られるハルシュタット文化や、装飾品で知られるラ・テーヌ文化がよく登場します。
各地の遺物には共通点がありつつも、作り手や使い方は地域によって異なりました。「紀元前1200年にケルト人が誕生した」と一つの日付で決めるのは難しいところです。
その後、ローマ帝国の拡大やキリスト教の広がりを経て、文化は変化します。古代の習慣がそのまま途切れずに現代へ続いた、と単純には言えません。
一方で、アイルランドやブリテン諸島に残る言語、物語、工芸には、それぞれの時代の営みが刻まれています。スコットランド国立博物館は、鉄器時代の品からキリスト教の影響を受けた美術、近代の再解釈までを展示でたどっています。
ケルト模様を展示品から見てみる

ケルトの展示で目を奪われるのが、曲線や渦、動物の姿を組み合わせた装飾です。鉄器時代のラ・テーヌ様式に見られる模様と、中世のアイルランドの金属工芸や写本の模様は、制作された時代が違います。「ケルト模様」と呼ばれるものにも、長い時間の中で重なった表現があるのですね。
例えば、アイルランド国立博物館が紹介する「タラのブローチ」は中世の作品で、その装飾には鉄器時代のラ・テーヌ様式を思わせる渦巻きも見られます。展示を見るときは、模様の形だけでなく、作品の年代、発見場所、素材にも目を向けてみたいと思います。
バルゴタで撮った写真を見ると、木の扉の上の石には、円の中に三つの曲がった形が彫られています。三方向へ伸びる姿は、トリスケルと呼ばれる三腕の模様を思わせます。ただし、形が似ているだけで、この家の石彫りをケルト時代のものとは判断できません。建物の年代や、彫った人が込めた意味も未確認です。
ナバラ州の文化遺産アーカイブによれば、バルゴタには家系の紋章を残す古い建物もあります。写真を見返して「これは何だろう」と調べる時間も、旅の続きのようで楽しいです。

参考:アイルランド国立博物館「The Tara Brooch」/ナバラ州無形文化遺産アーカイブ「Bargota」
ケルト音楽は古代から同じ形で続いている?

「ケルト音楽」は、アイルランドやスコットランドなどの伝統音楽、そしてそれらに影響を受けた現代の音楽を広く語る際に使われます。ジグやリールの踊るようなリズム、ハープやフィドルなど、地域や曲によって響きも異なります。
古代の人々が演奏した曲を、そのまま現代の録音で聴いているわけではありません。時代ごとに育った音楽として味わうと、それぞれの土地の特徴が見えてきます。
ユネスコはアイルランドのハープ演奏を、同国で長く受け継がれてきた文化として紹介しています。
アイリッシュ音楽との呼び方の違いや楽器を詳しく知りたい方は、アイリッシュ音楽とケルト音楽の違いもどうぞ。
ドルイド、魔女、魔法とケルトの関係

ドルイドは、古代のガリアやブリテンについて記したギリシア・ローマの文献に登場する人々です。宗教的な役割などが伝えられていますが、本人たちの言葉で残された資料は限られています。
大英博物館によると、古代のドルイド本人を確実に描いたといえる図像もありません。
神話に出てくる不思議な力、古代の宗教的な営み、現代の「魔女」のイメージは、それぞれ生まれた時代や背景が違います。
ひと続きの「古代ケルトの魔女」として扱うと、歴史と後世の創作が混ざってしまいます。私は神秘的な物語に惹かれるからこそ、その違いを知りながら楽しみたいです。
ハロウィンやストーンヘンジもケルトと関係する?

ハロウィンの歴史には、アイルランドなどのサウィンに関わる習俗やキリスト教の行事、後の地域ごとの習慣が重なっています。
仮装やカボチャまで、現代の行事のすべてを古代ケルトだけで説明することはできません。詳しくはハロウィンの歴史とケルトの関係にまとめています。
ストーンヘンジは、ケルトやドルイドの話題と一緒に紹介されることがあります。建設が始まったのは紀元前3000年ごろの新石器時代。
ケルトの鉄器時代よりはるかに古い遺跡です。私も英国を旅して見た場所ですが、建設した人々を「ケルト人」と決めつけず、遺跡そのものの長い歴史に目を向けたいと思います。
参考:イングリッシュ・ヘリテージ「A timeline of Stonehenge」
ケルトについてよくある質問

ケルトとはどこの国のことですか?
ケルトという一つの国はありません。古代ヨーロッパの複数の人々や、現代のアイルランド・スコットランドなどに見られる言語や文化に関わる言葉です。
ケルト人は今もいますか?
ケルト系の言語や文化に親しみ、自らの地域のアイデンティティとして大切にする人々がいます。古代の人々をそのまま一つの現代の民族へ結びつける表現は避けたいところです。
ケルト模様はすべて同じ時代のものですか?
鉄器時代の装飾と中世の金属工芸・写本の模様では、時代や制作の背景が異なります。展示品に添えられた年代と場所を見比べると、違いが分かりやすくなります。
ルーン文字はケルト文字ですか?
ルーン文字は主にゲルマン諸語の表記に使われました。アイルランドなどで見られるオガム文字とは別の体系です。気になる方はオガム文字とカードの記事もご覧ください。
まとめ|模様からケルトの歴史をたどる

ケルトは一つの国や、変わらず続いてきた一種類の文化を指す言葉ではありません。古代の遺物、地域ごとの言語、中世の工芸、現代の音楽や物語を見ていくと、時代を越えたつながりと違いが見えてきます。
バルゴタで見つけた家の石彫りを写真で見返して、「この模様はいつ、何のために作られたのだろう」と考える。その小さな疑問からヨーロッパの歴史をたどるのが、私には楽しい時間です。




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